自身の一般翻訳とバイオテク関係の翻訳の経験から得た「バイオコムジャパン版翻訳御法度集」を公開します。

その 1 、最初の一歩を間違うべからず。

 日本では日本人翻訳家が、取りあえず日本語を英語にし、その語の ” ネイティブチェック ” でもって完全な翻訳にするという形が一般的である。しかしながら、この方法に見合うだけの英語を書く能力を持つ日本人翻訳者は少ない。そういう有能な日本人翻訳者は確かにいる、しかし非常にまれである。よって、 ” ネイティブチェッカー ” 達は往々にして、救いようのない英語の集まりを目の前にし途方に暮れ、次の2つの選択を迫られることになる。彼自身の手で最初から翻訳し直すか、見るに忍びない文法的間違いのみを取り敢えず修正し、その他の多くの不自然な言い回しはそのままにして最終原稿を提出するかである。この結果、でき上がった翻訳がほぼ間違いなく低水準のものになってしまうのである。

 

私がトヨタ工場で通訳として働いていた時の話である。そこでのモットーの一つに“品質は最初から備わっている。後に付け加えられるものではない ” というのがあった。生産ライン上で生じる欠陥に対する言葉であり、生産ライン上で不具合が生じた車を直そうとすることはできるだろうが、まず最初の段階で欠陥が生じないように保証することでより高い品質を維持することが出来ると言う意味である。翻訳も然りである。本当に質の高い翻訳を求めるならば、ほころびを繕うところから始めていてはいけない。備わった質こそが高い品質の翻訳の最初の第 1 歩なのである。

 

その 2 、特殊な分野には特殊な能力が相之必要なり。

 バイオテク関連事業は今が花盛りである。が同時に、比較的新しい分野でもある。つまり常に新発見や、新技術の開発がめじろ押しの、変化の著しい成長し続けている分野であるということである。技術が常に変化していると言うことは、もちろんそれに対応する用語も流動的である。例を挙げると業界ではお馴染の「構造ゲノミクス」という用語である。しかしながら、この「構造ゲノミクス」の意味するところはここ数年で大きく変化してきている。初期には、「構造ゲノミクス」は「ゲノムマップを作り、ゲノム配列を調べること」を意味していた。これが、現在では、「蛋白質の構造を決定するためのハイ・スループット技術を用いること」という、全く異なった意味を示すようになっている。最新の用語の意味は用語集で調べれば足りると考える人もいるかもしれない。しかし定評のある某バイオテク用語集でさえも、英語での使用上の間違いを含んでいることがあるのである。この分野の新しさから考えても、一般翻訳者やバイオテク業界に明るくない翻訳者に頼ることはお粗末な翻訳に終わる可能性があるのである。

 





その 3 、カタカナを信ずる事なかれ。

 英語翻訳の御法度中の御法度は、カタカナ言葉をそのまま、英語に「翻訳し直す」ことである。これらの言葉は外国語、多くは英語、に由来しているが日本語として根づいた言葉である。しかしながら、その意味と用法は頻繁に変化し、時には大々的に変わってしまい、その語源とは全くかけ離れたものになっていることもある。例えば「システムアップ」というカタカナ語である。コンピューターシステムの発展を意味するために「システムアップ」が用いられることは珍しくない。日本語ではこれで構わないのだが、これをそっくりそのまま“ system up ” として英語翻訳中に用いてしまうと、全く意味を成さず、ネイティブスピーカー達を困らせてしまうことになるのである。システムつながりで言えば、日本語から英語の翻訳文章中に「 system biology 」という言葉を頻繁に目にすることがあるが、業界としての正しい訳は「 systems biology 」である。

 

その 4 、日本語原文の長い一文をそのまま使うべからず。

 日本語では一つのパラグラフが、実は 1 文からなっていると言う状況がしばしば起こりえる。これは私の個人的な意見であるが、あまり良い文章とは言えない。しかしそれが許されているというのが現状である。一方英語では、適切な文章スタイルとは一文が適度な、決して落語の ” 寿限無 ” 的でない、長さになっているものされている。これらの1パラグラフ 1 文の文章をそっくりそのまま英語にすることも不可能とは言わないが、それらを短く区切って、明白かつ簡潔な、分かりやすい英語にすることのほうが、ずっと好印象である。

 

その5,いかなる時もキャラクターだけは避けるべし

 日本人じゃない人達には自明のこととは思うが、バイオテク製品やサービスを提供する際に「イメージキャラクター」を用いることは良案とは言えない。日本では、子供用のおもちゃから最新のバイオテク商品まで、ほとんど全ての商品を売る時には、かわいらしい漫画キャラ達が用いられる。しかし日本以外の国では、漫画やイメージキャラクター達は唯一こども業界にのみ使用されるものである。従って日本のバイオテク企業が海外の子供たちにターゲットを絞ってでもいない限り、漫画キャラ達は外すべきである。さもなければ海外では真剣なビジネスとして受け入れられないかもしれないという危険が出てくることになる。

 



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